茶事の中の食事“懐石”(茶事②)
茶事の中で、客に出す食事を“懐石”といいます。これは、茶道の成立に関係深い、禅宗のことばです。禅宗の僧は座禅をして修行するときに、いろいろな迷いが頭に浮かばないように、食事を少ししか食べなかったそうです。それで、冬には寒さがいっそうこたえるので、石を焼いて布に包んだもの(温石ONJYAKU)を、懐FUTOKOROに入れて寒さをしのいだといわれます。このことを懐石KAISEKIといい、このことばが転化して、適度に軽い食事をすることを、懐石というようになったと言われています。
利休より前の時代の茶会では、招かれた客は破子WARIGOという弁当のようなものを懐に入れて、各々が食べ物を持ち寄ったので、懐石といっていたそうですが、利休時代からは、招く側で食事を出すスタイルに変わりました。しかし、この食事のことも懐石という呼び方で現在まで続いています。懐石料理は、亭主がみずから材料から探し求め、自分自身の手で心を込めて料理をし、客に出すものです。ですから、特別に沢なものではなく、亭主の深い思いやりのこもった料理になります。正午の茶事等での懐石はフォーマルな食事なのでお酒も伴います。
特に‛八寸HASUN’を頂くときは、亭主と客が盃SAKADUKIを交わし、一期一会のひと時を楽しみます。茶事での懐石の基本的な流れは、最初に折敷ORISHIKIという大きめの四角いお盆に汁とご飯、向付MUKOUDUKEが出され、煮物椀、焼物、(八寸HASUN、香KOUのもの)、となります。この‛一汁三菜’というスタイルは現在の日本料理の献立の基本です。